書評
書評 「シン・半導体 これを知らずして未来は語れない」(日経サイエンス社)
古くから知られた言葉の新バージョンという意味か、「シン・ウルトラマン」「シン・ゴジラ」ならぬ「シン・半導体」というタイトルがまさに現代的だ。出版社によれば、「特に若い世代の人に、最新の半導体に関する話題を伝えたい」という気持ちを込めたのだという。表紙には「失われた30年」と書かれている。かつて半導体生産で世界を席巻した日本の半導体メーカーは、1990年代半ばにはほとんど生産を止めてしまった。そのころ二十代、三十代だった若者はすでに企業や大学の一線を退いている。企業にも大学にも半導体の専門家は数少ない。
半導体はあらゆる機器の心臓部としてますます重要になっているが、国内ではほとんど生産されていない。経済安全保障の観点からも再び国内で量産することが必要となってきた。日本に世界的な半導体製造装置と半導体材料メーカーはあるが、製品を買うのは主に海外の半導体工場だ。日本で半導体生産そのものを復活させるため、これからの社会を支える若者に、本書を入口として関連の知識と技術を身に着けてもらいたい。監修は元「日経ナノテクノロジー」編集長だった中部大学の黒川卓特任教授が担当した。
(一般社団法人日本粉体工業技術協会 前田孝善)
- 書籍名:シン・半導体 これを知らずして未来は語れない
- 発行日:2025年12月22日
- 編集:日経サイエンス編集部
- 監修:黒川 卓 中部大学特任教授
- 発行:日経サイエンス社
- 定価:2,200円(税込)
- サイズ:A4変型判
- ISBNコード:978-4-296-13003-0
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書評「ベーシック電気化学 第2版」(化学同人)
粉体技術は、電池材料や触媒に限らず、電子材料、医薬品、セラミックス、分散系など幅広い分野に関わっており、その機能は粒子の大きさや構造だけでなく、界面の状態やそこで生じる微視的な相互作用に強く依存している。とりわけ、界面における電荷の分布や移動は、多くの系において材料特性を理解するための重要な視点を与える。こうした現象を捉える枠組みの一つとして、電気化学の基礎的な考え方は、粉体材料の振る舞いをより深く理解する手がかりとなると思われる。
粉体技術は、粉体工学や物理化学といった基礎学問に根ざしながらも、個々の材料やプロセスに即した多様な経験の蓄積によって豊かに発展してきた分野である。その経験を電気化学の基礎理論の視点からあらためて捉え直すことは、現象の背後にある共通の原理を見出し、既存の知見を新たな理解へと結びつける契機となり得るであろう。粒子表面の状態や界面での反応性を、電位や化学ポテンシャル、電気二重層といった概念と結びつけて考えることで、個々の現象がより統一的な像の中に位置づけられ、経験と原理とが美しく緩やかに結びついていくことを実感できるのではないだろうか。
本書は、このような電気化学の基本概念を、物理化学の基礎に立ち返りながら丁寧に説明している。数式の導出過程も含めて段階的に議論が進められており、それぞれの概念がどのような前提に基づき、どのような意味を持つのかを自然に理解できる構成となっている。さらに、今改訂では紙面が2色刷りとなったことで、図表や数式の視認性が格段に向上した。インピーダンス測定や電位測定など、日常的に扱っている測定結果についても、その背後にある原理を視覚的にも整理しながら捉える視点を養う助けとなる。
第2版の刊行にあたり、著者らは、エネルギー問題や環境問題と密接に関わる現代社会の中で電気化学の重要性が一層高まっていることを踏まえ、内容の見直しと再構成を行っている。電気化学をエネルギー・環境技術の基盤として位置づける記述が加えられるとともに、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの実例がより充実した。また、電子移動反応の理解についても、単一電子移動の視点を明確にするなど、基礎理論の意味がより明瞭に伝わるよう工夫されている。これらの改訂は、基礎と応用とのつながりを意識しながら理解を深めようとする読者にとって、有益な導きとなるものであろう。
基礎に立ち返ることは、単に知識を補うことにとどまらず、日々扱っている現象を新たな視点でとらえ直す契機を与えてくれる。本書は、電気化学という学問体系を通じて、界面で起きる現象を確かな論理で解き明かしている。粉体材料に関わる研究者・技術者が、自らの経験をより深く体系化し、その先にある可能性を切り拓くための信頼できる基盤として、本書を強く推薦したい。
(横浜国立大学 石原顕光)
- 書籍名:ベーシック電気化学 第2版
- 発行日:2026年2月
- 著者:大堺 利行、加納 健司、桑畑 進
- 発行:株式会社化学同人
- 定価:3,300円 + 税
- サイズ:B5判、216頁
- ISBNコード:9784759825633
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書評「新 粉体工学概論」(日刊工業新聞社)
本書はタイトルに「新」とあるとおり、単なる旧来教科書のアップデート版ではなく、そもそも「粉体とは何か」という原点から定義を考え、粉体工学を俯瞰して解説する姿勢が明確に打ち出されている。その姿勢が最初から最後まで一貫しているため、粉体をかじったことがある読者にとっても、「粉体は流体とも固体とも異なり、粒子集合体として独特の考え方がある」ということを改めて実感させられる。
本書は第0章「粉体の全体像」で俯瞰図を示したうえで、第I編「粒子の特性と外界との相互作用」、第II編「粉体の特性と挙動」、第III編「粒子および粉体の操作」という(あるいは3編)構成となっている。全体としては粒子の性質から始まり、集合体としての挙動、さらに工学操作へとスケールアップしていくという流れである。
第I編では、粒子の形状・粒子径分布といった基本的な特性から、空気・水中における粒子表面の状態、粒子に働く力が整理される。この流れは一般的ではあるものの、ナノ~サブミクロン領域までを視野に入れ、ファインセラミックスなどの微粒子を念頭に置いた説明が多いのが特徴的である。粒子径が小さくなるにつれ、どの力が支配的になるかが変化し、結果として「同じ粉体操作が通用しなくなる」ことを説明して、後半へとつないでいる。
第II編は、本書の思想が最もよく現れている部分で、本書独自の目玉である「懸濁集合」「堆積集合」について独立して解説されている。粒子が流体中に分散している「懸濁集合」と、重力場の下で堆積した「堆積集合」という二つの集合形態で粉体をとらえ直し、それぞれについて安定性、流動性、凝集・分散の様相などを議論している。従来、「粉体」と一括りにされてきた対象を、このように集合形態で切り分けることで、工学的にかなり性質の異なる問題群がきれいに整理される。学生・初学者にとっても、「なぜスラリー技術とバルク粉体技術が同じ教科書に載っているのか」が、単なる経験則の寄せ集めではなく、“集合形態”という軸で理解できるようになっている。
第III編では、粒子の生成、粉の加工、分離・分級、捕集、スラリー調製、成形、乾燥・焼結、貯蔵・供給・輸送と、粉体操作の一通りの単位操作が網羅されている。ここは一見すると定番メニューだが、前半で築いた概念枠組みを踏まえて書き下ろされているため、「これは懸濁集合に対する操作か、堆積集合に対する操作か」が自然に意識される構成になっている。粒子間力や分散性が支配的になる操作について、ナノ~マイクロスケールの粒子挙動から説明がつながっていく点に、本書の“新しさ”があると感じられる。
もう一つの大きな特徴は、それぞれのトピックについて身近な例を取りながら話を立ち上げている点である。教科書は式展開と実験式の羅列になりがちだが、本書は身近な現象と結びつけて説明するとともに、演習を挟むことで理解を進めることが重視されている。また、言葉の定義や表現がしっかりと統一されているため、初心者でも「なぜこの現象が起きるのか」を直感的に理解しやすくなっていると感じられた。本書は概念の再定義から単位操作の基礎までを収めており、粉体工学を「粒子の集合形態」という一本筋の通った視点で再構成し直したという意味で、“概論”としての完成度が高く、288ページという限られたボリュームの中に濃密に凝縮されている。学部や大学院で粉体工学を学ぶ学生あるいは粉体プロセスに関わる研究者・技術者など、粉体工学を一通り体系的に押さえたい読者にお薦めの一冊といえる。
(一般社団法人日本粉体工業技術協会 前田孝善)
【目次】
第0章 粉体の全体像
第I編 粒子の特性と外界との相互作用
第1章 粒子の特性
第2章 空気・水中の粒子表面
第3章 粒子に働く力
第II編 粉体の特性と挙動
第4章 懸濁集合
第5章 堆積集合
第III編 粒子および粉体の操作
第6章 粒子の生成
第7章 粒子および粉の加工
第8章 粒子の分離・分級
第9章 粒子の捕集
第10章 スラリー調製
第11章 粉の成形
第12章 乾燥、焼結
第13章 貯蔵、供給、輸送
- 書籍名:新 粉体工学概論
- 発行日:2026年1月
- 著者:椿 淳一郎
- 発行:株式会社 日刊工業新聞社
- 定価:3,800円 + 税
- サイズ:A5判、並製、288頁
- ISBNコード:9784526084232
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