活動報告
環境エネルギー・流動化分科会 報告
2022年6月29日
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①検温状況
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②新地エネルギーセンター
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③福島天然ガス発電所 GTCC
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④東日本大震災原子力災害伝承館
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⑤帰宅困難地域
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⑥技術懇談会風景
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⑦福島第一原子力発電所_廃炉状況
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⑧福島第一原子力発電所_集合写真
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⑨福島水素エネルギー研究フィールド
2022年6月9日~10日、今年度第1回目の見学会を福島県にて開催しました。本見学会は昨年度の実施を予定していましたが、1月の新型コロナ第6波及び3月の福島県沖地震の影響で2度にわたり延期していたものです。今回は“カーボンニュートラル”を考えるうえで参考となる福島県内のエネルギー関連設備を中心とした見学会を実施したので以下のとおり報告します。
1)新地エネルギーセンター
新地エネルギーセンターは、東日本大震災に伴う津波により壊滅的な被害を受けたJR新地駅周辺の復興まちづくり実現をめざす「新地スマートコミュニティ事業」の心臓部として、周辺施設に熱電併給を行っている。同センターには、相馬LNG基地(新地町)から供給される天然ガスを活用したガスエンジンコージェネレーションシステム(発電出力:35kW×5基)、冷・熱源設備(排熱回収型吸収式冷温水機:120RT×1基、ガス吸収式冷温水機:120RT×2基、スクリュー冷凍機:17RT×1基、温水ボイラ:581kW×3基)、太陽光発電(国内製多結晶シリコン型・40kW)、蓄電池(リチウムイオン電池:50kW)等が設置されている。それら複数の設備をエネルギーマネジメントシステムによって制御・管理を行い、地域の需要に応じた熱電エネルギー供給の最適化を実現しており、災害時には地域の自立型電源としても使用される。熱としては約65℃の温水(暖房及び温浴施設)と約7℃の冷水(主に冷房用)を供給、地域熱需要の100%を賄っている。将来的には農業生産施設への熱・電気に加え、CO2供給も視野に入れているとのこと。
2)福島天然ガス発電所
相馬LNG基地に隣接する福島天然ガス発電所は、出力118万kW(59万kW×2基)の福島県初の天然ガス火力発電所である。環境負荷の少ない天然ガスを燃料とすることで、排ガス中にばいじんやSOxを含まず、排ガス処理系がシンプルな設備構成となっている。CO2の発生も他の化石燃料に比べ大幅に少ない。1500℃級ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた、発電効率の高いガスタービンコンバインドサイクル方式(GTCC)を採用し、発電端効率61%(低位発熱量基準)を誇る。当所ではガスタービン・発電機・蒸気タービンの配置を工夫することで一般的なGTCC方式よりもシンプルかつコンパクトとなり、コストダウンが図れたとのこと。現地で案内いただいた所員の方の話では、以前携わったバイオマス発電と比べ、天然ガス発電では灰の発生が無いため、メンテナンスが大変楽とのことであった。
3)東日本大震災・原子力災害伝承館
かつて避難区域であった双葉町に2020年にオープンし、東日本大震災と福島第一原子力発電所事故の経験や教訓、復興の歩みなどを後世に伝える情報発信施設である。津波や原子力災害で被災した施設や復興の状況について、当時の映像や震災・原発事故関連資料等を間近で見るとともに、地元の方から話を伺うことができた。我々のような県外からの見学者には、当時の大規模災害と被災地状況、その後の復興過程等を学ぶことができる大変良い経験となった。
4)東京電力廃炉資料館 & 福島第一原子力発電所
廃炉資料館と福島第一原子力発電所の見学を行った。まず廃炉資料館のシアターホールで、地震発生から原発事故発生に至るまでの過程とその対応に関する動画を視聴し、別途会議室で廃炉作業の現状について詳細な説明を受けた。
その後一行は第一原子力発電所に移動、厳しいセキュリティチェックを受け、積算線量計を装着したうえで、専用バス内から構内の各設備を見学した。事故を起こした原子炉建屋から80mほど離れた高台からは、バスを降車して直接廃炉状況を見ることができた(現地での線量は約78μSv/Hr)。現在は汚染物の除去やフェーシング(法面等へのモルタル被覆)等の作業が進み、構内の約96%の場所では防護服なしで作業可能となっている。現在約4000名が構内で作業を行っているとのこと。
原子炉建屋では高所無人遠隔での撤去作業が行われていたが、これは元々大手建設会社に難しいとして断られたものを、地元福島の企業が世界初の技術として実施したものである。現在3号機と4号機からは使用済み核燃料取り出しが完了済みで、1号機、2号機の核燃料取り出しも2年以内に完了する予定とのこと。炉内の燃料デブリは専用設計のロボットにより近日中に取り出し試験を開始するということで、予想していたよりも廃炉作業が進んでいる印象を受けた。
汚染水発生量は、凍土遮水壁やサブドレン等による地下水の流入抑制により対策前の約1/4に低減している。また構内貯留量の3割は多核種処理除去設備(ALPS)により放射性物質を告示濃度限界未満まで除去完了している。政府から処理水の海洋放出の方針が出され、放出水の放射性物質濃度が国の基準を大幅に下回る値となっているものの、「ネガティブ情報はすぐに拡散し、ポジティブ情報は広まらない」と風評影響抑制に相当配慮されていた。
構内には原発事故当時に被爆したことで場外へ出すことができなくなった乗用車が多数残されていた。また地震により倒れた鉄塔や津波で捻じれるように変形した燃料タンクはアーカイブとして後世にそのまま残されるそうである。
5)福島水素エネルギー研究フィールド
福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)は、2020年3月に開所した水素製造実証施設である。水素製造には18万m2の敷地内に設置した約6万枚の国産太陽光パネルにより発電(20MW)した電力を使い、世界最大級の10MWアルカリ水電解水素製造装置により1,200Nm3/Hの水素を製造する。1日の水素製造量で約150世帯(1ヵ月分)の電力を供給、または560台のFCVに水素を充填できる。本施設では、電力系統に対する需給調整を行うことで、蓄電池を使わずに出力変動の大きい再生可能エネルギーの電力を最大限利用するとともに、クリーンで低コストな水素製造技術の確立を目指している。
実際にFH2Rを見学して、まず20MWの太陽光発電に必要なパネルの多さと敷地の広大さを実感した。水素製造並びに制御技術はうまく稼働しているようだったが、水素の貯蔵・輸送およびコストの面で解決すべき課題が残っていると感じた。
6)所感
本見学会は2度の延期の影響で6月に実施することとなった。奇しくもウクライナ情勢を受けて世界的にエネルギー動向が大きく変化し、国内でも夏場の電力逼迫予想に伴う節電要請が検討される状況下での開催となった。地球温暖化防止への対応とエネルギー安定供給を両立させる必要性が高まるなか、一部からは原発再稼働に期待する声も聞かれる状況であるが、当分科会としてはニュートラルな立場で福島の現状を直に見ることで、参加者各位がエネルギー問題に向き合ううえでの一助になれば、との思いで見学会を開催した。
移動の途中、JR大野駅・夜ノ森駅周辺の帰宅困難地域にも立ち寄ったが、一見どこにでもある地方の住宅地に立ち入り禁止のフェンスと雑草だけが生い茂るひと気のない状況を目の当たりにして、原発事故の影響の大きさを実感した。伝承館では地元の説明員さんから「福島のものとしては原発を再稼働して欲しくない気持ちもあるが、地球温暖化対策として効果的であることも理解している。再稼働するのであれば是非福島の反省をしっかりと生かしてもらいたい」との話があった。史上最悪規模の事故を起こした4基の原子炉とも地震の直接的な損傷は無く、全電源喪失の事態を想定して対応できていれば、或いはこのような大惨事は起きていなかったかもしれず、技術者としてリスクを徹底的に考えることの重要性を改めて痛感した。
震災から11年がたちTV等で福島の様子が報道されることも少なくなったが、いまなお震災と原発事故の傷跡が残り続けていることを再認識する一方、新たな取り組みが大規模かつ本格的に進められている状況を自分の目で見ることによって、様々なことを考えさせられる見学会となった。またこれまで中止していた技術懇談会も復活し、参加者それぞれの想いを共有することができたのではないかと思う。
今回の見学会では2度の延期にも関わらずご参加いただいた皆様をはじめ、新型コロナの影響が残る中で見学を受け入れていただいた見学先各位、また本企画をサポート頂いた福島イノベーション・コースト構想推進機構の方々に深く御礼申し上げます。