活動報告
合同分科会 報告(晶析&微粒子ナノテクノロジー)
2023年10月5日
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Brigitte Wallaさんの講演
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Daniel Bischoff氏の講演
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白木賢太郎先生の講演
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ポスターセッションの様子
IPNF2023では、日独からご講演者をお招きし粉体技術に関連した最新情報の講演およびポスター発表が行われましたが、この中で晶析および微粒子ナノテクノロジー分科会にて20日に講演会を開催しました。合同では5講演が行われ、ナノテクノロジーの分野では2講演が行われました。
晶析分科会ではタンパク質の結晶サイズ、結晶化時のエネルギー変化や凝集に関する講演が行われ、微粒子ナノテクノロジー分科会では、光学特性を備えた斑状ナノ粒子の連続フロー式での合成方法の紹介、光硬化樹脂の架橋可能なサスペンションを用いた三次元構造のセラミックス材料の成型方法に関する2講演が行われました。合同開催により有機無機の両視点からナノテクノロジーへの知見を深める貴重な機会となりました。以下にその概要について報告します。
午前中行った粒子加工技術分科会が12:40ぐらいまで延びたため、オープニングとクロージングをなくし、13:10から講演を開始しました。
13:10~13:50 Recent Advances in the Preparative Crystallization of Proteins by Rational Crystal Contact Engineering
Ms. Brigitte Walla (Technical University of Munich)
タンパク質晶析は、クロマトグラフィーの代替として役立つ。しかし、タンパク質の結晶化は結晶化条件の制御によって制限されることが多い。そのため、タンパク質の結晶化プロセスをよく理解し、モデリングに基づいて制御する必要がある。本研究では、LkADH結晶における静電相互作用に焦点を当て、結晶サイズと結晶量によって、対応するLbADH 変異体に関する結晶化の可能性の順序が得られた。今後、PET分解酵素へ展開するため、分取タンパク質結晶化を目指すべき道筋が紹介された。
13:50~14:30 Unifying Rational Protein Crystal Contact Engineering Strategies: Computational Approach using Molecular Dynamics Simulation
Mr. Daniel Bischoff (Technical University of Munich)
十分に結晶化可能なタンパク質はごくわずかであり、結晶化中の分子プロセスはほとんどわかっていない。本研究では、従来の経験的なアプローチからモデリングに基づくアプローチへと置き換えるため、LkADHの溶媒和状態と結晶化状態のエントロピーをMDシミュレーションで計算し、潜在的な変異体を予測する。どの変異体を選択するかは、SERとMDを用い、接触部での静電相互作用を改善するアミノ酸を導入し、タンパク質の結晶化に伴うギブスの自由エネルギー変化が負となるものである。これら変異体の結晶化挙動は、新たな画像解析ツールを用いて検証中であると紹介された。
14:30~15:10 Control of protein aggregation by small additives
Prof. Kentaro Shiraki (University of Tsukuba)
タンパク質水溶液の濃度が高いと分子間の凝集が促進される。それら凝集は、アルギニン添加で抑制することができる。アルギニン中のグアニジニウム基とタンパク質の芳香族アミノ酸との相互作用によるものであると考えられている。アルギニンの正の電荷は、タンパク質の凝集抑制に必要なため、例えば、主鎖のカルボキシル基をエチル化するなどして負の電荷を減少させることによりその効果を増大させることも可能である。このようにタンパク質の理解を深めるためのタンパク質溶液の挙動について紹介された。
15:10~15:50 Continuous flow synthesis and multidimensional characterization of plasmonic patchy nano particles
Prof. Robin Klupp Taylor (Friedrich-Alexander-Universität Erlangen-Nurnberg)
光学特性を備えた斑状ナノ粒子の連続フロー合成と多次元特性評価と題し、シリカやポリスチレンをコア粒子とし、銀や金のパッチを有した粒子の液相法による作成技術について紹介頂いた。また従来のバッチ方式の場合攪拌が不十分だとコア粒子が十分に覆われない事という理由から開発された連続フロー式での粒子作成手法についても解説頂いた。金属のパッチサイズを調製する事で可視光および近赤外スペクトル全体にわたってLSPRピークをシフトできる能力を有しており、色材や顔料、光触媒、および太陽電池などの光電子デバイスでの応用が期待される。
さらに、コーティング層の状態を観察するためのミー散乱を利用した評価機器の開発についても説明下さった。コア粒子が480nmという小さな粒子のコーティング層であっても、層の状態が異なる事で散乱パターンに違いが生じる事を示して下さった。
15:50~16:30 Interparticle Photo-cross-linkable Suspensions: A New Strategy Toward Rapid Manufacturing of 3D Structured Ceramic Materials
Prof. Motoyuki Iijima (Yokohama National University)
粒子間光架橋可能なサスペンション: 三次元構造セラミック材料の迅速製造に向けた新手法と題し、紫外線と3Dプリンターによるセラミックス成形技術を解説頂いた。従来法では表現困難な複雑形状部材を製造できる技術ではあるが、サスペンション中に存在する多くの有機成分により脱漏・焼成過程にて問題が生じる事も少なくない。そこでモノマー使用量を減らすためにポリエチレンイミン(PEI)で分散化したシリカスラリーに対し微量の多官能アクリレート(MA)と光重合開始剤を配合することで、MA の光ラジカル重合と、その重合熱に誘起される PEI修飾シリカ粒子/MA間の付加反応により光硬化する粒子間光架橋性スラリーの設計について解説下さった。新設計によりモノマー量が減少した光硬化成形体は、構造的崩壊が生じることなく、急速加熱により乾燥、脱蝋、および焼結後、緻密な成形体の形成が可能になった事を紹介下さった。
9月21日に行われたポスターセッションでは、5件の発表と少人数の参加者でのセッションとなったがその分議論は活発でした。
今回のINCHEM東京2023では、カーボンニュートラル&DXをテーマに展示会場では、連日多くの講演会も開催されていました。また同じ会議棟では、日立ソーシャルイノベーションフォーラム2023も開催されており、当日飛び込みの参加はありませんでした。
また、化学工学会の中には材料・界面部会に、機能性微粒子分科会や晶析技術分科会が存在しており、それらの会員にも案内が回る仕組みも作っていく必要があると感じました。