活動報告

晶析分科会 報告

2022年2月8日

2021年12月23日、第1回晶析分科会として、各分野でご活躍されている講師の先生方をお招きし、結晶成長(核生成から結晶形成に至るまで)に関する講演会を開催いたしました。下記に講演概要を報告します。

講演1 「バイオミネラルのメソクリスタル構造に学ぶ古典的および非古典的な結晶成長」
慶應義塾大学 理工学部 応用科学科 教授 今井宏明 氏
近年、イオンや分子の集積による古典的な結晶成長に対して、ナノサイズの結晶やアモルファス粒子が集積する非古典的な結晶成長が提唱され、新たな材料合成プロセスとして注目を集めている。講演では、貝殻などの炭酸カルシウム系バイオミネラルに多く見られる、ナノ粒子が結晶方位をそろえて集積した「メソクリスタル構造」の形成過程を例として、古典的および非古典的な結晶成長について解説いただいた。

講演2 「メタダイナミクス法で探る結晶形成メカニズム」 産業技術総合研究所 環境創生研究部門 灘 浩樹 氏
メタダイナミクス法とは系がとる全ての構造状態の熱力学的安定性を表す自由エネルギー表面を効率良く作成する計算科学手法である。この方法を効果的に活用すれば、通常の分子動力学法では追求できない実時間スケールの結晶成長の機構解析や未知の相構造の探索が可能となる。講演では、この方法の概要及びこの方法による過冷却水からの氷の形成経路や炭酸カルシウム結晶核生成前駆体構造の研究を紹介された。

講演3 「結晶形成溶解過程におけるpH/イオン濃度変化を可視化する:新たな固液界面反応評価の試み」
北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門 准教授 川野 潤 氏
水溶液中における結晶の成長/溶解メカニズムを解明するために、結晶表面近傍の局所的な溶液環境を明らかにすることが重要である。北大のグループでは、局所的なpHやイオン濃度変化を、蛍光プローブを用いて2次元イメージングする試みを行ってきた。炭酸塩鉱物を例として観察を行った結果、結晶溶解時のpHやイオン濃度分布の変化の様子を可視化し、視覚的に溶解プロセスをとらえることに成功している。さらに、ゲル内二重拡散法による炭酸カルシウムの形成過程におけるpH変化を可視化した結果についてもあわせて紹介された。

講演4 「結晶化とガラス化の深い関係:過冷却液体の方向秩序化」
東京大学 生産技術研究所・先端科学技術研究センター 教授 田中 肇 氏
古典核形成理論では、過冷却液体の結晶化は、ランダムな構造を持つ液体から、並進対称性を持った結晶が熱活性化過程を経て起きると考えられてきた。この従来の常識に反し、東大では、過冷却液体には、方向秩序の揺らぎが本質的に存在し、それが結晶の対称性と整合すると核形成を誘発し、整合しないとガラス形成を促すことを見出した。講演では、この過冷却状態にある液体の方向秩序化と結晶化・ガラス化との関係についての新しい考え方を紹介された。

年末差し迫った時期での開催ということもあり、参加者数は少なかったのですが、古典的および非古典的な結晶成長について、結晶形成メカニズムについても様々なアプローチからの言及があり、参加者にとっても有意義な講演会になったと考えます。

以上
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