活動報告
合同分科会 報告(微粒子ナノテクノロジー、晶析、粒子加工技術、粉体シミュレーション利用技術)
2022年10月31日
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[写真1]Brigitte Walla氏とDaniel Bischoff氏の講演
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[写真2]長野隼人氏の講演
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[写真3]吉川洋史先生の講演
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[写真4]Adrian Flood先生の講演
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[写真5]ACHEMA2022会場
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[写真6]Merck社工場見学記念写真
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[写真7]BASF社工場見学記念写真
2022年8月23日~24日にかけ、微粒子ナノテクノロジー、粒子加工、晶析、粉体シミュレーションの4分科会はドイツ化学工学会が開催する化学プラントショー・ACHEMA2022併催行事として、合同分科会「国際粉体技術フォーラム2022(IPNF2022)」を開催しました。下記に報告します。
8月23日
1.微粒子ナノテクノロジー分科会
ナノ粒子技術の基礎と様々な分野における応用」をコンセプトとして4件の講演があった(会場からの発表が3件で、Web講演が1件)。日本からは東京農工大学:神谷教授が座長を務められ、早稲田大学:松方教授、京都大学:渡邉准教授が講演された。
2.晶析分科会
「タンパク質の相転移の現象とタンパク質の工業的な晶析技術の展望」をコンセプトとして4件の講演があった(会場からの発表が1件で、Web講演が3件)。発表会場にて同志社大学:白川教授が座長を務められ、日本からは味の素(株) バイオ・ファイン研究所:長野氏、大阪大学:吉川教授が講演された。
講演1
タンパク質晶析は、制御されたタンパク質の結晶化技術として進展してきている。精製された LbADH 変異体の多くは、静電相互作用が強化された変異体よりも速く結晶化する。MDを使って、結晶化の相対的な結合自由エネルギーを用い検証したところ、溶媒和状態の結晶接点およびタンパク質表面のアミノ酸が変異し、自由エネルギーが変化する。実験的研究と計算研究を組み合わせた結果、結晶化可能性に関するさまざまな変異体のランキングができ、自由エネルギーシミュレーションは、タンパク質晶析を理解して導くための有用なツールとなる。さらに、静電相互作用と、疎水性効果により、結晶性が向上する。(写真1)
講演2
コリネバクテリウム・グルタミカムCorynexを用いた味の素株式会社のバイオ医薬品向け組換えタンパク質発現サービスの紹介があった。タンパク質相転移を用いた産業応用の一例で、CspB 結合タンパク質は、酸性条件で完全に沈殿し、中性および塩基性条件で再溶解し、その挙動は可逆である。そのため目的の CspB 結合タンパク質は、酸性溶液を添加することで容易に沈殿し、不純物や培地成分を含む上澄を遠心分離した後、中性および/または塩基性溶液で溶解し回収できる。また、酸性状態で不安定なタンパク質の場合、不可逆的なタンパク質変性を避けるために、無機塩を添加することで CspB 結合タンパク質の沈殿する pH を制御できる。新しいタンパク質精製の手法の一つとして紹介された。(写真2)
講演3
光誘起結晶化は、有機および生体分子の結晶化の時間的および空間的制御のための方法として多くの注目を集めている。高品質のタンパク質結晶の生成するため、その中で、フェムト秒レーザー照射を用いて、低過飽和での結晶核形成と成長を促進することを提案している。レーザー照射により、溶液中にキャビテーションバブルを生成することによって核生成を促進できる。さらに、ターゲット面の単結晶成長は、結晶のフェムト秒レーザー照射によって局所的にらせん転位を作ることによって大幅に強化できる。そのため、従来のアプローチだけでは容易に達成できない、所望のサイズ、形状、品質の結晶を生成することができる。今回のご講演では、その概要と最近の成果、そして今後の展望について紹介された。(写真3)
講演4
食品、洗剤、製薬産業などの産業用途での酵素の使用においてタンパク質は重要である。最近、特定の結合部位を標的とすることができるタンパク質であるモノクローナル抗体 (mAb) が、医学、分子生物学、生化学でますます使用され、研究されている。晶析は、mAb のクロマトグラフィー分離に代わる分離ステップとして研究が進んでいる。タンパク質は高分子であるが、タンパク質晶析設計は、低分子種のユニット設計と同じように扱うことができる。今回のご講演では、溶解度、核形成、結晶成長モデルなどのタンパク質晶析のプロセス設計に必要な基礎知識と、ユニット設計に必要なバランスについて説明された。さらに、溶媒凍結法、膜結晶化法、および結晶化中のタンパク質種の分離を強化するためのテンプレートの使用など、タンパク質の工業的晶析を促進するいくつかの新しい方法が概説された。(写真4)
<まとめ>
タンパク質は酵素や食品タンパク質、医薬品などさまざまな用途がある。それらの精製手法として、カラムクロマトグラフィーによる精製が主流であるが、コスト面で課題がある。タンパク質の新しい精製手法として、相分離現象と晶析を用いることをチャレンジすべく、講演会にて本テーマとして、物理化学、分子生物学、物理学、化学工学という敢えて異なる専門家を集め、多角的に議論した。分科会としては、今後議論がさらに進む土台を醸成することができた。
コロナに加えウクライナ情勢も重なったこともあり、日本を含めアジアからの出展も少なく、ACHEMA自体空きブースも目立ち、来場者も従来の半分くらいという印象であった。今回、コロナ後初めてとなる海外分科会をハイブリッドの形で開催したが、時差もあり時間設定も非常に難しいと感じた。
8月24日
3.粒子加工技術分科会
IPNF2022の製剤に関する講演は、5件あり、日本からは愛知学院大学:山本教授及び神戸学院大の市川教授が座長を務められ、;愛知学院大;山本教授、エーザイ;市原氏、三菱ケミカルエンジニアリング;村田氏が講演された。なお、現地参加者は35名、オンライン参加者は30名、講演者は5名、関係者(現地・Web;粒子設計部会事務局)は9名であった。
4.粉体シミュレーション技術利用分科会
粉体シミュレーションのセッションでは「固形医薬品製造工程におけるサイバーフィジカルシステム実現のための基盤技術」というコンセプトに関する講演が4件あり、日本からは東京大学:酒井准教授が座長を務められ、大阪公立大学:綿野教授に続いて酒井准教授が講演された。
ACHEMA2022視察
今回のACHEMA 2022では、50か国以上から2,200を超える出展社が展示を行った。前回のACHEMA 2018の全出展社数は55か国から3,737社の展示となっており、国別出展社数はドイツ、中国、イタリア、インドの順となっていた。今回のACHEMA 2022では、ドイツ(1042の出展社)に続いて、イタリア(179)とインド(143)の順となっていた。海外企業の割合は52.9%で高水準を維持していた。「デジタルハブ」、「安全」、「実験室および分析技術」、「材料技術と試験」、「医薬品、包装・保存技術」、「研究・イノベーション」「エンジニアリング」、「計装・制御・自動化」、「情報」、「教材」、「メカニカルプロセス」、「ポンプ・コンプレッサー・バルブ・フィッティング」、「熱プロセス」などに分かれて各フロアにて展示が行われていた。(写真5)
Merck社見学
Merck 社(Merck KGaA)は1668年に設立された世界で最も古い化学および製薬会社の一つである。まずVisitor センター内に移動して実際の製品サンプルを前にしてその特徴を解説いただいた。さらにMerck 社の創設時の説明があり、ヘルスケア、ライフサイエンス、エレクトロニクスなど、それぞれの領域で主力となる製品やサービスに関して、各自に配布されたスマートフォンの動画を交えて解説いただいた。(写真6)
BASF社見学
1865年に設立され、主力製品は伝統的な化学品・農業関連製品にとどまらず、第二次世界大戦後は石油・ガス事業へも進出した。現在ではプラスチック製品・高機能製品も生産している。当日はまずLena Spindler 氏とFelicitas Guth氏より「Excipient development of BASF Pharma Solutions」と題したプレゼンテーションにて同社の方針について解説いただき、続いて最新サービス「ZoomLab」を紹介いただいた。その後大型バスで工場内を周回して現地の設備について解説いただいた。(写真7)